~二つの世界大戦を比較しつつ、その構造を理解する。現代の戦争を考えるうえで参考にしたい良書~
木村靖二『世界史リブレット 二つの世界大戦』1996年9月、山川出版社
著者は高校の教科書の編集も手がけている歴史学者で、専門はドイツの近現代史である。その為、本書もヨーロッパに関する内容が中心となっている。
あらすじ
世界的好景気の中で起こった第一次世界大戦は、それ以前の戦争のスタイルを大きく変え、各国の予想を裏切り、泥沼化。これまで経験したことのない長期間の戦いとなった。
戦後の処理にも問題があり、一つは国際連盟が全く機能しなかったことと、二つ目にドイツに対してあまりに感情的なフランス、イギリスによる、敗戦国ドイツへの賠償金問題であった。
少なくともこの戦後処理の問題が、その後のドイツでのファシズム出現、そして第二次世界大戦の勃発の一要因となったのは確かである。
本書のポイント①「大量殺戮兵器の出現」
飛行機、潜水艦、戦車、毒ガスなど新しい武器・兵器が出現。第一次世界大戦より前の戦争と、大きくその戦闘のスタイルが変化した。また戦争は戦闘員のみならず、一般市民を巻き込む、より広範な総力戦へ突入する。
長期化する戦争と凄まじい塹壕戦
パリ東方のマルヌ川付近で、フランス・イギリス連合軍とドイツ軍がにらみ合ったまま、以後3年間凄まじい塹壕戦へ衝突する。マルヌの戦いで消費した弾薬量は、日露戦争の全弾薬消費量に匹敵したという。
※大戦開始当初は、ヨーロッパのどの国も、短期決戦で決着がつくと思っていた
本書のポイント②「第一次大戦の戦後処理問題」
敗戦国ドイツにとって過酷な内容であったヴェルサイユ条約。対ドイツ報復を目指すイギリス・フランスによって、ドイツはアルザス・ロレーヌ地方の返還、ポーランド回廊の割譲、海外全植民地の放棄、軍備制限などを課せられる。
しかし、最もドイツにとって深刻だったのが、多額の賠償金問題であった。その額1320億金マルク。国内の経済は一挙に破綻し、1ドルが4兆2千億マルクになるという破局的インフレであった。
※フランスにとってドイツに賠償金が課されることは、再びドイツが戦争を始めない為の、有効的手段だと考えられていた。しかしそのフランスのドイツに対する姿勢が、その後のファシズムを生み出す一つの要因となり、1933年1月、ヒトラー政権が誕生している。
まとめ
2023年2月現在、ロシアとウクライナによる戦争は終わりが見えない。戦争が始まった当初、ニュース番組でも、戦闘の早期決着が予想され、ここまで長期にわたる戦争の泥沼化が起きるとは思っていなかった。
「戦争」というものを今身近に考えるにあたって、参考になる良書だった。入門書として非常にわかりやすく、二つの世界大戦を通して、その構造を理解するのに役立つと思う。
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